8月19日。0時を回って一番に携帯が鳴った。しかも電話の方の着信音だ。ディスプレイを見ると幸村精市の文字。 『こんばんは、。誕生日おめでとう』 「・・・どうも」 『誕生日に欲しいものってなんだろうなと思って。あ、俺?』 陽気にそう言ったいたずら電話に近い電話を切ろうとしたら電話の向こうから『切るとどうなるかぐらい分かってると思うけど?』なんて言葉が聞こえてきたものだから、受話器を耳元に戻した。 中学時代、高校時代となんのミラクルか分からないけど幸村とはずっと同じクラスで、ましてや部活まで一緒だったのに、それから進学して大学生になった今も全く同じ選択科目を履修して、 挙句の果てにはテニスサークルまで一緒って。絶対何らかの黒魔術的なものが私にかけられているに違いない、神的な存在によって。というか幸村によって。 『ところで今日、何か予定ある?』 「え?そりゃまぁ」 『ないよね。赤也が誕生日パーティをしたいって言い出したから』 「(あるって言ってるんですけど無視ですか)・・・赤也が?」 『そ、で、テニス部のいつものメンバーでやるから』 「え、で、でも今日は友達が祝いのパーティ開い」 『へぇ、は部長の俺の誘いを断るんだ? 』 電話の向こうの幸村の笑顔が想像出来た。そんな状況が想像できてしまうから、断れるはずもない。一方的に予定を話し出す幸村にあたしは完全に言葉を失っていた。 後からの誘いを断れなくて予定してくれていた友達を裏切るなんてホントにごめんなさい。…あの悪魔の微笑みに勝てる存在があるのなら今すぐに出て来てあたしを救い出して欲しい。 『という訳だから』 「え、あ、うん」 『で、俺が車で迎えに行くか「絶対イヤ」 『大丈夫大丈夫、今日ぐらいは安全運転で行くしね』 友達への罪悪感で幸村の言う予定は話半分でしか聞いてなかった。それよりも問題は幸村が迎えに来るということだ。過去に何度か幸村の車に乗せてもらったことがあるけど、 今までの経験からして、奴の運転は安全運転なんて言えるレベルじゃなくて、なんかのアクション映画のスタントを見ているかのようなハンドル捌きで乗り終わったときに心臓がまともに動いていた試しがない。 しかも本人が安全運転だと認めていない時点でどうかしてると思う。 『予定してくれてた友達たちにはちゃんと断っといたから』 「・・・なんであんたが知ってんの」 『の予定は全部把握してあるからね』 フフフと幸村が笑った。夏なのにものすごい寒気がするのは気のせいでしょうか、神様。開いた口が塞がらないまま何も言えないでいると、そのまま幸村の電話はじゃあ朝10時にの一言で切られてしまった。 で、朝10時に幸村が本当に車で家まで迎えに来た。乗りたくない気持ちで一杯一杯だったけど、早く乗りなよと動かない私の手を引っ張って車に乗せた。 助手席に座ってカチリとシートベルトをつけたけれど、何故か心臓は車が動いてもないのに早く打っていた。本当に今日は安全運転を心掛けるよ。そう言って幸村は車を走らせた。 心掛けるというのは実行力に欠けると思うのはあたしだけですか。しかし、予想に反して幸村は安全運転をしてくれた。車で10分ほどの会場までの間、車内には音楽だけが流れてて、 会場の駐車場に着くと幸村は紳士らしく、車のドアを開けてあたしの手をとって降ろしてくれた。 「あ、このまま手は繋いでおこうか?」 「は?」 「俺からのお願い」 「今日はあたしの誕生日なんですけど?あたしの要望何一つ通ってないんですけど!」 「繋いでくれたら、後で弦一郎にハッピーバースデイの歌を歌わせるっていうのはどう?」 「・・・・」 交渉はなんなく成立してしまった。真田にそんなことされたら容赦なく笑っちゃう。失礼な話だけど、多分笑うのはあたしだけじゃないと思う。赤也・丸井あたりは爆笑しすぎて真田の雷が落ちるに決まってるし、柳はたんたんと歌を評価するだろうし、仁王に至っては録音でもしかねない。 誕生日プレゼントと称して絶対くれる。ジャッカルと柳生はその様子を遠巻きに微笑ましく見ているのだろう。そしてトドメに幸村がもう1曲とか言い出して真田は最終的にもう1曲歌うに違いない。あーあ単純すぎるな自分。 「幸村はあたしのことなんでもお見通しって感じでずるい。ムカツク」 「そう?俺はが好きだからなんでも知っておきたいだけなんだけど」 悪魔みたいな笑みじゃなくって、無邪気に笑った幸村に何も言い返せないままだった。会場について、先輩!と走って向かってくる赤也に、幸村は繋いだ手を見せ付けるように上げて、何故か勝ち誇ったように笑っていた。 (07/08/19) |