「ただいま」
「・・・どちら様だっけ?」

隣の家を訪ねて一番言いたかった本人に言った。そう言えば笑顔と無条件で「おかえり」の言葉が返ってくると思っていたのに、これってどういうことですか?10年近く幼馴染みで5年前に引越して5年ぶりに帰って来て、久しぶりに会う幼馴染みに言う言葉ですか? 何も言えず私は、腕を組んで私のことを考えている目の前の男を見ていた。こっちは忘れた日なんて1日もなかったし、こっちに戻ってまたお隣り同士になれるんだと喜んでいたのにこの仕打ちはなんなんですか。 久しぶりに会った近所のおばさんには、ちゃん相変わらずねぇ。なんて思春期の女の子に対して失礼だなぁって思いながら必死の愛想笑いで返したのに、こっちはこっちで分からないなんて結局変わったの変わってないのかどっちなんだよ!とっツッコミを自分でしてみた後、 まだ考え続けている目の前の男・幸村精市に聞き返してみた。

「私を忘れたって言うんですか、あんたは」

小さいころから何年と重ねてきた私たちの幼馴染み関係はそんなに記憶にないものですか?そりゃここ2・3年は連絡も途絶えたてしまったよ?途絶えたのはそれからもう1回引っ越して山の奥地へと引っ越してしまったものだから、電波がなくて繋がらなかった所為だけども。ホントよく生きてこれたよ、うちの家族! なんだか泣けてきた。いつの間に女の子を泣かせることが上手になったのか知らないけれど(これは関係ない気がしてきた)、これはかなり切ない。やばい、本気で切ない。こんなところで泣いたら絶対迷惑だって分かってる。だって相手は私のこと何も覚えてないのに。

「泣いてる?」
「、泣いてない」
は泣き虫になったね」
「泣いてないって。だいたい泣き虫はあんたの方だったでしょ・・・って」

そうだね、昔は俺のほうがよく泣かされたのな。って。目の前の男はふふふと笑っている。 何を暢気に笑ってるのよ、なんで?私のこと忘れたんじゃないの? って言ってやりたいのに、言いたい言葉が詰まって出ない。

「久しぶりだね、ちゃん」
「精市・・・覚えてるじゃん」
「当たり前だろ?俺が幼馴染をそんな簡単に忘れる男だと思ってた?」
「・・・・あんた、さっきの私がどんな思いだったか分かってんの!?精市の馬鹿!」
「ごめんごめん。あんまりにもが可愛くなって帰ってきたから本当に分からなかったんだよ」
「嘘吐け!」
「嘘じゃないよ」

殴りかかった手を簡単に掴まれて、ぐっと精市に引き寄せられて驚いた。精市は5年の間に身長も私より随分高くなって、力だって私を軽々と引き寄せるほど強くなっていて、泣き虫の面影が見られない全然知らない男の子になっていた。 かと思うと急に精市の顔が近づいて、一瞬にして唇まで奪われてしまった。え、とも言えず、かといって逆の手で殴りかかれずにあたしはその場に立ち尽くした。明日から一緒に学校行こうなとか、一緒のクラスになれたらいいなとか、 そんなこと言う前に私に言うことがあると思うんだ。今更もう遅いけど、とさっきのことで真っ白になった頭の中でそれだけが片隅にあった。そして思い出したように精市はふふふと笑って言った。

「おかえり。俺の処へ」



泣き虫毛虫の逆襲劇


(06/10/21)