寝る前に食べたら太ると分かっててもこの暑さには耐えられなくてコンビニにアイスを買いに行った。クーラーや扇風機がなくても昔の人は生きてこれたんだから真夏になるまで我慢しなさい!と、電気代をケチるママは団扇で仰ぎながら私を怒った。なぜかママに逆らえない私は、しぶしぶ倣って団扇で仰いでいたものの、腕が疲れてすぐにやめた。すると暑さがガンガン押し寄せてきて、私の中の限界を超えた。クーラーや扇風機が使われるまでの間、私はあと何回この行動を繰り返すのだろうか。今は昔と違って温暖化だっていうのにおかげで財布の中身だけはすごく寒いよママ。 「今日はどれにしようかなぁ」 「俺的にはコレがオススメだけどな」 「自分の食べたいものを選ぶので結構です」 「ハハハッ、つれねぇな」 「・・・なんだ、甲斐谷か」 どこぞの誰に話しかけられているのかと思えば、近所に住む同じクラスの甲斐谷陸だった。甲斐谷はコンビニの袋を提げていて、帰ろうとしたところで、アイスのクーラーボックスの前で唸る変な奴を見つけたと言った。それがどうやら私だったらしく、面白そうなので声をかけたと。 「こんな時間に食うと太るぞ」 「いちいち言われなくても分かってますー」 「しかもこんな時間に出歩くとは」 「え、あ、もう23時か。甲斐谷こそこんな時間まで起きてたら明日また遅刻だね」 「・・・情けないな、に言われるとは。で、食べるやつ決まったのか?」 「まだだよ。もう少しであと2つぐらいに絞れる」 「さっさと決めろよ。送って行ってやるから」 「・・・・・・は?」 「なんだよ」 「べ、別に近いからいいよ。5分もかかんないし」 「お前さ、自覚持てよ。女の子だろ」 「いやでも」 「別に焦らなくていいから終わったら声かけろな」 ちゃんと待っててやるからさ。甲斐谷は時々、いやに紳士的になる。そういえば、この間別のクラスの女の子が甲斐谷のところに来ていた。告白だったようなそんな雰囲気だったと思う。確かに甲斐谷は、背は低いけど足は長いし、伝統的あるアメフト部の1年にしてレギュラーだし、足は速いし、背が伸びたら男前にもなる気がするし、モテる素質はその小さな体の中にうんと秘めてある。私は2つに絞っていたはずのアイスをそっちのけで、別のアイスを選んだ。その時の私の意識の半分以上は甲斐谷に送ってて行ってもらうということにもっていかれてて、とりあえずなんでもいいからいち早くアイスを2つ買うことしか考えてなかった。1つは甲斐谷へ、送っていってもらうお礼の分のアイスを買うことを瞬時に悟れたのは奇跡に近い。普段ならまずない。悩んでいたおかげで随分涼しくなり、頭が早く回転したに違いない。でも袋にいれてくれた店員さんから強引に奪う形になったのは申し訳なかった。とりあえず今は、早く、早く。 「お、案外早かったな・・・て、これは?」 「わざわざ送ってってもらうの甲斐谷に悪いと思ったから・・・お礼」 「サンキュ、なんだか悪いな」 「ううん、こっちこそ迷惑掛けてごめん」 「ならもうこんな時間にあんま出歩くなよ。暗いし、危ないんだからな」 車が通っているわけでもないのにわざわざ車道側を歩いてくれたり、足下を気にしてくれたり、甲斐谷は紳士すぎる。私より少し前を歩く甲斐谷の背中に、彼の服の裾に無意識に手を伸ばしていてハッとしてひっこめる。いやいやなにやってんだ私。怖いわけでもないのに、どうして甲斐谷に触れようと思ったのか。もう少しゆっくり話ながら帰ってもいいかなぁなんて思ったりしたのか。暑い、頬が熱い。なんでだろう、アイスでもちっとも冷えないや。 |