ぼくときみの
領域
受験シーズン到来。真冬の寒い時期にやつらは堂々とやって来ては受験生の体力と精神力を掻き乱し貪り奪い去って行く。 専らそのまま山吹高校に進学しようとか考えてる自分にとってはほぼエスカレーター式のこの学校において外部受験を考えてる奴等の気持ちなんて分かる訳ないけれど、 南ってば俺とそんなに一緒にいたいなんて仕方ないなー!とか馬鹿げたセリフを年がら年中言い放ち、頭に花が咲いてるようにしか思えない千石みたいな奴はこの時期は特に鬱陶しいとは思える。 「でさー南、ちゃんとは上手くいってんの?」 お前がちゃんつーなっての。そう千石に言うとちゃんは南に勿体ないよなぁなんて言いやがった。 千石のいう春希ちゃんことは都内の青春学園中学に通う同い年の女の子で、俺の彼女である。都大会の青学との試合後、関東大会、絶対出場してくださいねと励ましの声を掛けられて、 それがたとえ自分たちが負けた相手の学校の生徒であろうとも、可愛ければ一目惚れのひとつやふたつしてもおかしくない・・・・はずだ。 が青学のマネージャーの友人で、この大会の応援に、初めてテニス部の応援に来ていたにしろ俺は、決まったら一番に君に報告するよ。 と、柄にもない言葉を発していたとしてもそれはもう出会いを含めて必然的なものだったと思いたい。あの時アドレスと番号を聞けたのも今までには考えられない行動だったと思う。 それから関東大会出場が決まってすぐに彼女に連絡をして、告白をした。あの時、はい。と電話越しに聞こえた声がこれまた夢じゃなかった・・・はずだ。 「・・・まぁな」 「嘘だろ?それ」 そんなことはないとは言えなかった。クリスマスも初詣も一緒に迎えてからの2月。その2月以降連絡が取れなくなってしまったのはどういうことだ。 2月に入ってからメールも電話も繋がらなくなって心配ばかりしていた。 俺とは彼氏と彼女というその一部分以外共通点など何もない。お互いの学校生活についてだって連絡が取れなければ一切分からないほどなのだ。 だから連絡が取れなくなって俺の知らないうちに自然消滅にでもなってるのも不思議ではない。 でも彼女の友人に様子を聞くと最近勉強を前より頑張っているようだということ以外は別段変わりないと言われた。 元々は勉強が出来るほうで、でもテストはまだまだ先なのに勉強だなんて、それは会いたくない口実ではないかと思ってしまうほど。 「もう駄目なんだろうな・・・俺とは」 「アレ気付いてない?あー南ってやっぱり鈍いよね」 「なにが?」 「あ、今日午後から高等部外部受験者の合格発表の日だって知ってた?」 「(はぐらかしたな)ああ。だから今日は昼までなんだろ?」 「じゃあ帰り覗いてかない?新入生の可愛い子探したいからさ」 「お前・・・」 俺が今どんな心境だか知ってんのか?千石にそういうと、まぁまぁいいから付き合ってよ。南は女の子のこともっと分からなきゃ駄目なんだからさ。と訳の分からない切り替えしをされ、 どうせ暇なんだしいいじゃん!と結局丸め込まれて放課後に千石の女の子ウッチングに付き合う羽目になってしまった。 「うっわー可愛い子いっぱい!」 「落ち着けって」 昼過ぎともなれば外部受験者が山のように掲示板の前に押しかけ、帰り道の通路はあっという間に塞がれていた。 片っ端から女の子に声を掛けようとする千石を繋ぎとめておけるのももうそろそろ時間の問題だ。 「・・・?」 「健太郎くん。久しぶり」 「久し、ぶりだな」 「どうしたの?そんな驚いた顔して」 「全然連絡とれてなかったのに、いるからびっくりして」 全く面倒なことに巻き込まれたと人ごみの中で溜め息をついていると目に映ったのは久しぶりに見る姿。 あ、と気付けば千石はもう何処へ行ってしまったのか分からなくなっていた。 「連絡取れないって・・・こっちは必死に勉強してたんだから仕方ないでしょ?」 「テストなんてまだまだ先の話だろ?」 「この時期に勉強って言ったら一つしかないでしょ?受験勉強してたの。推薦入試の」 「受験勉強?」 「うん。で、今日の合格発表を見に来たの」 「発表って・・・まさか」 「はい。無事に合格しましたよ」 バッと目の前に広げられた合格通知には山吹高校合格の文字が。え、なんでと口にするより先に自分の驚いた表情に春希が笑った。やっぱり驚いた?ってそんなまさか。 「だっては青学の高校行くはずじゃ・・・」 「もちろんそのつもりだったよ」 「ならなんで今日此処に」 「健太郎君は高校違ってても仕方ないと思ってたんでしょ?」 「ああ」 「健太郎君は山吹離れたくなかっただろうし、だったら私がって」 「それはだって同じだろ?」 「そうだけど、でも」 好きな人といるのが一番じゃない?そうまともに言われると一気に顔が赤くなるのが分かった。それと同時にポケットの携帯がブルブル震えてメールが1件受信されていた。 ちゃん受かったんでしょ?おめでとう〜!でも南の鈍さにはホント困るよねー!!と俺には理解しがたい内容のメールが送られてきていた。 に会ったときに千石の姿はもうなかったはずなのにどうして千石が知っているんだ? 「だって千石君は受験するの気付いてたから」 「え?」 「受験前に『南は気付いてないと思うけど、頑張れ!』ってメール送られてきたんだよ」 「(・・・あいつ)」 「でもこれで春からいつも一緒に居れるね」 嬉しいでしょ?と合格通知を誇らしげに見せ付ける彼女を俺は一枚も二枚も上手に感じた。それと彼女の行動をお見通しだった千石にも(普段の行動はに一切尊敬なんて感じたりしないけど)今回ばかりは尊敬を覚える。 彼氏と彼女でしか相容れない関係でしかないと諦めていたはずの二人の関係は、彼女の行動によってあっけなく同じ世界になることが出来た。 参加させていただきありがとうございました! 「brihigh」企画様へ捧ぐ。 嗣也(07/05/28) |