無数の空の星は綺麗でいろいろな形の正座が季節に浮かぶ。特に夏には七夕なんて星のイベントがあって天の川を作り上げる。 星は多ければ多いほどに輝いて空を埋め尽くすけれど。

「あっ、流れ星」

それでもやっぱり目につくのは、一瞬の輝きで視界から姿を消してしまう流れ星の方だ。

「そんなに珍しいか?」
「ジャッカルはアマゾンの奥地から来てるから珍しくないだけだよ」

何だそれ、とジャッカルは苦笑いの表情を浮かべた。周りの民家の電気は消えていて辺りはしんと静まり返っていて、星だけが光るこの空間に響くのは私とジャッカルの声だけ。

「星が観たいの」
『何で俺にわざわざそんなことで電話を・・・部屋から観えるだろうが』
「もっと近いところで見たいの!今日は流れ星も見えそうだし」
『見るとして何処で観るんだよ』
「私の家の屋根の上とか?」
『大人しく部屋で観てろよ』
「嫌!もういいよ、1人で屋根登ってみるから!」
『お前っ!・・・ったく、じゃあ迎えに行ってやから家の前に出てろ』

と、登るはずだった屋根の上はいつの間にか、電話相手のジャッカルの知る廃墟マンションの屋上に変わっていて(屋根の上なんかで観られて落ちでもされたら一生恨まれるからという理由で)、星が屋根の上よりも近くに見える屋上は特別暑くも無く涼しくも無かった。

「で、何かあったのかよ」
「え?」
「急に星が観たいとか言い出すから」
「手を伸ばしたって届くはずないと思っても、それでも少しでも近いところで眺めたかったんだよ」
・・・お前意外とロマンチストだったりするのか?」
「うるさい」
「悪ぃ悪ぃ。褒めたつもりなんだけどな」

と、笑いを浮かべるジャッカルのことだから本当に褒めたつもりだったんだと思う。私には自分にとって恥ずかしい言葉にしか受け取れなかったけれど。お詫びだと投げられた缶ジュースをいただきます、と開けて私が飲むところをみたジャッカルは満足そうに自分の分の缶を開けた。 ジャッカルのこういう他人を気遣う優しさを持っていることは誰もが知っている。だから丸井君にパシらされるんだと思ってしまう。だってジャッカルは本当に誰にだって優しくて、特に女の子にはものすごく気遣いをする。

「って言うかこんなとこ来てるの彼女知らないんでしょ?いいの?」
「お前が呼びつけといてその台詞か?まぁ別に言わなくたっていいだろ」
「ならいいんだけど。後で私が彼女に恨まれるとか止めさせてよね」
「そんなことねぇって。あいつは普段から特別だからさ。たまにはお前も、な」

と、ジャッカルは私に向けて笑みを浮かべた。そんなこと平気で言うのはきっと私のこと友達以外の何とも思ってないからで、私の本当の気持ちはジャッカルに何一つ届いていないし、気付いてもらえていない。彼女はいつも特別扱いで良いけど、ただ同じクラスでたまに特別扱いされる私の立場はどうなるのよ、と言ってやろうかと思うほどに。

「羨ましいね、彼女が」
「は?」
「ジャッカルみたいないい奴が彼氏でってことよ」
「褒められてんのか?お前に言われると気持ち悪りぃな」
「うるさい」
「冗談だって。ありがとな」

軽く頭に置かれたジャッカルの手を押し返した。そういう行動は彼女だけにしときなよ、私が切なくなるから。 髪の毛を整えながら、髪の毛が乱れるじゃないと言うと、お前でも気にしてんのか?とからかわれた。何も言わずじっとジャッカルを見れば、怖いな、とジャッカルはおどけて言う。

、好きな奴とかいねぇのかよ?」
「・・・別に」

ただ綺麗な星が観たいなら、仁王君の方が星の観える素敵な場所を知っているに違いない。でも、それでも。ジャッカルに彼女が居ると分かっても、 万が一彼女にこのことが知れて恨まれるにしたって私にとって特別なのはジャッカルであって、隣に居てくれるのはジャッカルでないと意味が無い。 それぐらいの意気込みがあって誘ってるの分かってる?って聞いたところでジャッカルは困ったように笑うのだと思う。

「好きな奴出来たら言えよな。応援してやるからよ」
「幸せな奴に言われるってものすごい腹立つ」
「んなこと言われたってよ」
「冗談だって。ありがとう」

今という時間が終われば私は特別な存在じゃなくなるって分かってる。分かっていても、叶わないと知っていても、それでもジャッカルに恋し続けて満たされることもなく、苦しく足掻いていたっていいと思ってしまう。 それでいい。だから今は我儘言って困らせたってジャッカルの傍に居てジャッカルのことを誰よりも知っておきたい。

「あ、流れ星」
「何願ったんだ?」
「内緒」
「まぁ言ったら叶わなくなるって言うしな」
「とりあえず気付いて困ってくれるくらいになってもらわないとね」
「何の話だ?」
「内緒」

いくつもある名前の知らない無数の星たちよりも、たった一瞬。たった一瞬の輝きを放ち消えていく、そんな流れ星のような特別な存在にいつかなれればいいなと信じて願った。


スターダストの願い


(06/07/17)