星 の 銀 貨
「あ、寒くない?」 「うん、全然大丈夫」 スカートから出た細い足は男の俺からしたら随分と寒そうだったけれど、隣を歩くちゃんはどうってことないって笑ってた。帰りにたまたま立ち寄った学校すぐ近くのコンビニから一人で帰るちゃんを見た俺が、一緒に帰ろう? と彼女の分の肉まんを片手に誘って今に至っている状況。なんだけど、引っ切り無しに肉まんの代金のことを気にしているようで、どうもちゃんは誰かにものを奢られるという行為が苦手みたいだ。 「千石君、コレ・・・」 「いいっていいって!ホントにいいから!!」 「でも・・・ただでさえ千石君おこづかい大変そうだから」 「いやいや俺だって部活ばっかりで遊ぶ暇ないんだからね?誤解しないようにね?」 「分かってる。冗談だよ」 ちゃんとは去年から同じクラスで、特にちゃんの授業ノートにはよくお世話になっている。借りてばっかりで悪いなぁとは思ってるんだけども、あの綺麗な字の並んだしかり要点のまとめられたノートを借りない日は無いと思う。 それでもって気前よく貸してくれるちゃんは可愛いし言うことなしだし。そんなこんなだからたまにはお礼の一つでもしとかないと罰当たりそうだ。 「帰るの珍しく遅いんだね」 「ああ、うん。生徒会の仕事溜まっててね」 「でもそれって絶対ちゃんの仕事じゃないでしょ?」 「え、何で分かったの?」 「ちゃん、面倒なことさっさと終わらせそうなタイプだし」 やっぱり的中だったようで、少し周りから仕事の遅れてる後輩ちゃんの面倒を見てあげてるなんてちゃんは優しいんだね。そう言うと、そんなことないよ!困ったときはお互い様だから。と、力一杯否定しながら照れ隠しに肉まんに小さくかぶりついた。 俺なんかお互いさまどころかお世話になりっぱなしで、どうしようもないんだけど。そんな他愛ない話をしているうちにちゃんの家に着いた。ちゃんの家は学校からさほど遠くない住宅街の一軒家で、庭にいた犬がちゃんのお迎えに門のところまで猛ダッシュで走ってきた。 「送ってくれてありがとう」 「いえいえ。可愛い女の子を送ったついでに家まで知れちゃったしね」 「あはは。あ、そうだ。手出して?」 「え?」 言われたとおりに差し出した手のひらにちゃんは100円玉を置いた。そして握りしめるように指を折られ、満足そうによし!と言ったちゃん。俺は只その様子を呆然と見ていた。いやいやいや。 「だからいいって。今日のは普段のお礼なんだから!」 「千石君が良くったってやっぱり私が嫌だよ」 「これぐらい奢らせといてよ、ね?だって俺が勝手にやったことだよ?」 「絶対ヤダ。それでもいいから貰っといて」 「えーちゃんてば強情!」 「強情でいいですよー」 「ならさ、ならさ、今度はちゃんが誘ってよ?今度はピザまんでもいいから」 「ピザまん・・・?」 「それならお相子でしょ?そうしよそうしよ!でなきゃ俺納得行かない!!」 「千石くん・・・子どもみたい」 「可愛い女の子の為なら駄々っ子にでもなるって。ハイ、コレ返すから、指きりげんまーん」 クスクスと笑いながら小指と小指で約束を交わして、じゃあまた明日。と手を振って家に入っていくちゃんの後姿を見送って、自分の家への道を歩き始める。ちゃんに誘われる前に俺から誘っちゃうんじゃないかなぁ。 今度ちゃんがはピザまんだから、俺はカレーまんとかあんまん片手に。そんなことを頭の片隅で思いながら、なんだか落ち着かなくてポケットの中に入っていたどっかのゲーセンのメダルを指で弾いた。夜空に浮いたメダルは月に反射して、まるで一つの星になったみたいだった。 |