「あーもう!」

パソコンルームにピーと機械音が響く。だから無理だって言ったんだよ・・・誰が私がコンピューターに強くて打つのも早いって言ったんだよこのやろう。この課題の山は嫌がらせか。ピーピーとパソコンは悲鳴をあげるばっかりで止まらない。と言うより止め方が分からないから放置することしかできない。どうやら私のパソコンの使えなさにパソコンが先に音をあげたようだ。ただでさえ友達から弄られキャラとして扱われているのに機械にまでコケにされるとは・・・・。あいにくパソコンルームは私一人。むしろ幸いとも言うべきかこの状況。誰か助けてくれないかなぁ。自分でやったのに言うのもなんだけど、煩いのは鬱陶しい。

「あ、乙部っちー!」

パソコンへの対応を投げ出し、窓に近寄る。偶然、視界に入ったのは、同じクラスの乙部清丸。他の人が彼をあだ名で呼んだりしていないから、勝手につけたあだ名で呼んでみたところ、思った以上に本人は気に喰わなかったようで。でも私はすごくお気に入りなんだけどな、という事実を話したら、それこそ世の中のありとあらゆる不思議を研究しつくしてる彼が、君の頭の中はどうかしてる、と頭を抱えていた。現に今、呼んだ先の彼はものすごく不機嫌だ。

「ちょっと助けてー・・・って何処行くの!乙部っち!!」

私を無視して足を進めていく。唯一の頼みの綱が。くそう薄情者め・・・変な被り物してるからって、その被り物が空調完備でおまけにミサイルやら携帯の収納機能がついてたって私はちっとも欲しくないんだから・・・そうちっとも欲しくないんだ・・・いいなー欲しいなぁあれ。


「あ、乙部っち!助けに来てくれたの?」
「そのふざけた呼び方、いい加減にしてくれない?」
「いいじゃん、可愛いのに」
「大勢の人がいる中で、変なあだ名を広めるような真似はしてもらいたくないんだけど」
「変じゃないから全然!それよりさ、これなんとかして!煩いの!」
「どっちかって言うと煩いのは君なんだけど」
「ごめんごめん!ほら謝ったからどうにかして!!」
「・・・・はぁ」

聞こえるくらいの大きさの溜息をついて、乙部はパソコンに近づいて私から席を奪った。そして、ちょっとキーボードを叩いてあっという間に鬱陶しかった音を一瞬で消し去ってくれた。おお!

「何でこんな簡単なこともわかんないんだろうね、君は。やっぱり脳みそがおかしいんだよ」
「アナログの人間ですから。機械なんて使える人が使えばいいんだから」
「よくありがちな言い訳だね、まったく呆れるよ」
「それよりさ、この課題の山の処理手伝ってくれない?」
「なんで僕が。それなら報酬は?」
「は?乙部っち、なに笠置みたいなこと言ってんの?」
「だからそれやめなって。八満じゃなくったって言うよ。それに僕はあいつと違って暇じゃないんだから」
「お金なんてないよ。お小遣い、ただでさえ少ないのに」
「金なんていらないよ。ただポン太くんを連れてきてくれるだけでいいから」
「・・・莫大な資金を要しますが?さっきお金ないって私言ったじゃん。無理無理無理。絶対無理」
「この将来性豊かな乙部清丸様を使うのに安いもんだろう」

ポン太くんをつれてくると言うことは、笠置の開催するポン太くん貸し出しオークションで勝ち取らなきゃならない。そのオークションの倍率は半端なく高く、なおかつ中学生にしては値段も高い。清丸には財力はあるけれど、オークションには立ち入り禁止。ポン太くんに近づくことができない。でもってシアンちゃんが乱入してくる可能性も考えて、私がお金を払うだけ無駄なわけで。・・・・要するにつれてくる術はほぼないに等しい。ましてや校長先生を含めた学校内の先生たちの弱みを握って科学室を自分の城に変える男だ。この男に無理なことが平々凡々な私に出来る筈がない。

「もっとさー私に出来ること言ってほしいんだけど」
「なら、僕と付き合うかい?」
「・・・・・・・・・は?」

一瞬、本気で顎が外れた。と思ったけれど、頬杖ついていたせいかどうやらそれは免れた。前からよく分からない奴だけど、これは本当なのか本当じゃないのか平々凡々人の私には理解しかねた。一体どっちだ。少しの沈黙の後、乙部は溜息と一緒に一言だけ言った。

「とりあえず、その変な呼び方を変えてくれたらいいから」

エンターキーを叩く音が大きく響いた。かと思えば乙部は立ち上がり、スタスタと部屋から出て行った。さっきからカタカタと何をしていたのかと思ってパソコンの画面を見ると、私に与えられていたはずの仕事は全部片付け終わっていた。

「なんでこれ終わってんの・・・・?」

一気に肩の力が抜けた。なんだかんだいって乙部はいつでも私を助けてくれるから絶対やってくれると思っていたけど、でもこれって。本来、よくよく乙部の性格を考えたらそれはおかしいのだ。八満じゃないけど、人にタダで何かをするのを嫌がるし、手伝ったら手伝ったで見返りとか自分にとって面白いかどうかの判断で行動するような奴だし、やることが人並じゃないし、夢が世界征服とか言うような奴だし、命の限り好き勝手するような奴でもある。ならさっきまでのやりとりは一体何・・・・?





冗談だよ。その一言があったら私は今こうして廊下を全力で走ってないと思う。とりあえずってなんだ。あれが告白とでも言いたいのか。わたしが鈍感とでも言いたいのか。・・・全然よくわからない奴だ。けれども。校舎の端から全力疾走して、階段付近でようやく乙部の特徴ありすぎる背中を見つけた。いつも呼んでるあだ名なんて忘れて大きな声で、清丸!と叫んだ。

「〜っ、冗談なのか冗談じゃないのかはっきりしていけ!」

清丸は振り返り、意地の悪い笑みを浮かべていた。ようやく気づいたかい?とでも言いたげなそんな。

「・・・自分こそ、私があだ名つけた時点で気付け馬鹿野郎!」

本当は、悔しいけれどずっと前からこっちにとって清丸は特別だったのだ。きっと返事なんて期待してなかったのだろう。言い逃げしようとか思ってたに違いない。それがこれだ。返事を聞くどころか、さらに逆告白されてるなんて予想外だったのだろう。意地の悪い笑みが一気に消え、清丸は面を食らった顔をしていた。なんて馬鹿面してんの。ざまあみろ。私の勝ちだ!


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(08/11/16)