卒業式1週間前。歪につくられた手作りの卒業祝いパーティの招待状を片手に、部室の扉を開けたらクラッカーが鳴って、「先輩、今までマネージャーとしていろいろとありがとうございました!」の拍手でも沸くのかと思いきや、なにやらホワイトボードの前で後輩の光が熱弁を振るっていた。予想外の光景に、ドアを開けたまま立ち尽くす私に気付いて迎え入れるのも、あ、先輩そこ座ってください。と酷くぞんざいに、簡単に済まされた。他のメンバーも全員揃っていたので、言いたいことを我慢して無言のまま指定された席に座り、熱心に聴くメンバーに倣ってホワイトボードを見つめてみると、明らかにおかしい文字が並んでる。“卒業祝いパーティ”と書かれているはず場所に“卒業祝い肝試しツアー”の文字。

「君たちは馬鹿だろう」

我慢の限界だった。全員の集中がこちらに移る。あ?だの、へ?だの、え、なんで?だの。分かってはいたけど碌な答えは返って来なかった。こんな講義を真剣に聞いてる方がよっぽどおかしいことに誰か一人くらい気付いてもいいはずだろう。いや、気付いている。気付いても口出ししない奴らがここの部には存在している。関西のノリにはついてこれないから黙っているのか?それとも成り行きを楽しんでいるのか。それよりもだ。

「・・・なんでパーティが肝試しやねん!」
「きゃっ、ちゃん、怖っ!」
「俺がお前の盾になるから大丈夫や!安心せぇ小春!」
「・・・ユウ君!」
「小春にユウジ・・・夫婦漫才なら外でやって」
「ああ、先輩怖いンすか」
「怖いとかの問題ちゃうし。時期考えろ、光」
「暑い時に熱いもん食べたいんと一緒で、寒い時に寒くなることしたくなるんが人間の性やで」
「白石の脳味噌は年中春みたいやな。千歳も銀さんもこいつら止めや」
「まぁ、楽しけりゃよかよ」
「その通りやな」
「・・・二人ともこいつらに甘いすぎやわ」
!やめるとかイヤやで!ワイやりたいもん!絶っ対やりたいねん!」
「き、金ちゃん・・・」

ホワイトボードの一番前の席を陣取っていた金ちゃんが振りかえり、大きな声で私に抗議した。今にも泣きそうな大きな目に、ぐっと言葉に詰まる。隣に座っていた謙也がケラケラ笑いながら、春希も金ちゃんには甘いな。って。そりゃそうだ。なんたってこのテニス部で一番かわいげがあって、一番手に負えない存在でもある。押さえつける手は、白石の毒手以外ないし。

先輩、肝試しっつってもただの肝試しちゃいますよ。よう見てください」

光が金ちゃんの頭をポンポンと軽く叩いてなだめ、空いてる左手でホワイトボードをコツンコツンと叩いた。何度見ても“卒業祝いパーティ”と書かれているはず場所に“卒業祝い肝試しツアー”の文字。やっぱりどうみてもおかしい。

「小春先輩が事前に情報収集してた、四天宝寺中七不思議の解明ツアーなんすよ」
「ツアーってどういうこと?」
「うふふ。この学校にもあるのよ、七不思議ってのが。ねぇユウ君」
「そや小春が3年温め続けたネタやで!」
「それに考えてみ、?肝試しを2人組で行っても春希と組む以外は男同士なんやで?」
「それがどうしたん、白石?そうなるんは当然やん?」
「そんなん誰が楽しいねん。楽しいんは小春とユウジだけやろ」
「謙也の言うとおりばい。この学校卒業するのに普通っていうのも勿体なかよ」
「そうなったら全員で行くしかないってことになってな」
も行こやぁ!ワイお化け見てみたいねん!」

相変わらずいつもの雰囲気で、このツアーを決行して3年生を送り出すという雰囲気は全くない。なんだかんだいって3年間この学校で、この部活にいたから、普通じゃ物足りないのはみんなと同じなのは確かだ。まぁ卒業式前に涙でしみじみ送り出されるよりはいい。結局、涙の別れより笑いでの別れのほうが私とこいつらには似合うってことか。最後まで仕方ない奴らだ。去年までは普通のパーティだったけど、本当は毎年とは違う催しにワクワクしている。では、ワイワイガヤガヤと騒ぎ倒しているこの全員で、中学最後の楽しみを作るとしますか。



校舎ミステリー体験


(09/03/10)