流れていく景色に目を瞑る。最近、テスト勉強の所為で寝不足だったから、規則的に揺れるバスの振動がいつも以上に心地良い。その上、暑苦しくてたまらない日差しも、夕方に向かってちょうどいいぐらいに変わり始め、深い眠りへと私たちを誘っていた。うとうとし始めていると、急に肩に重みを感じてはっと目を覚ます。

「ねぇ、ジロー」
「・・・んー」
「今日こそはジローの番だって、昨日私言ったよね?」
「・・・だっけ?」
「言った。絶対言った」
「・・・だって今日すっげー眠いC〜」
「私だって眠いよ!」

ジローが大きな欠伸をひとつして、目を擦る。私と幼馴染のジローには決まりがあった。私たちが一緒に帰るとき、必ずどちらかが起きていて到着駅に着く間際に起こすというものだ。でないと確実に2人とも寝過ごす自信がある。そのうちほぼ100%が私の役目なのは言うまでもない。珍しくジローが起きている日は、元気すぎるジローによって絶対寝かせてもらえない。でも、今日ばかりは譲れない。徹夜でテスト勉強をしてようやく眠れる時間なんだから。

「なに、、テスト出来なくて機嫌悪いの?」
「ち、ちがうよ」
「どうせまた数学できなかったんでしょ」
「うっ・・・」
「せっかく俺が教えてあげたのにー」
「教えてもらってない!ジローは寝てた!ずっと寝てた!」

そんな話にムキになっていたら段々眠くなくなってきて、そのままジローと話しを続けた。ジローも珍しく眠りにつかなかったから話はどんどん弾んでいった。テストの話、ジローのいるテニス部の話、私たちの学年の噂話、新しいお菓子の話。ジローといると他の誰よりも安心できて、たくさん話ができる。それは、幼馴染だからという理由じゃない気がしてるのは、私だけなのかな。そういえば、とジロー言った。

「テストってことはもうすぐ、」
「夏休みだね」
「俺、すっげー楽しみだCー!」
「テニス忙しすぎて、寝る暇ないだろうからね」
「うんうん!あ、はなんか予定立ててんの?」
「まだだよ。でも友達は彼氏と出かけるって言ってたなぁ」
「ふーん・・・って彼氏欲しいの?」
「うん、一応は。だって欲しくないって言ったら嘘になるし」
「そっか。ふわぁ〜・・・なんか眠くなってきた」
「はしゃぎすぎなんだってば、ジローは」
「ねぇ、。・・・・彼氏ってさ、俺じゃダメなの?」
「え?」

驚いて隣を見ると、すでにジローは寝息を立てて寝ていた。

「なんだ、寝言か」

安心したような、がっかりしたような気分だった。だってジローがそんなこと言うなんて思ってもみなかった。全く寝るの早すぎだよ。幸せそうに寝息を立てるジローの肩にもたれ掛かる。ジローと同じように、温かい陽と心地よい振動に目を閉じた。俺じゃダメなの?違うよ。本当は。

「ジローじゃなきゃダメなんだよ」

知ってるよ。夢に落ちる寸前、ジローがそう笑った気がした。



午後の日差しの誘惑



(08/08/10)