「・・・・マジですか」 ガランとした教室、人っ子一人見当たらない。5分前にゴミを捨てに行くとばかりに教室を出た男子は未だ戻っていない。そもそも奴はゴミ箱を持たずに鞄を持って出て行ったような気がする。というかあれは確実に鞄だった。一人だけならまだしも、私がバケツに水を汲みに行って帰って来る5分もないような時間に全員いなくなるってどういうことだ。女の子たちの姿もなく、<ありがとう☆>と知らない間に書かれた黒板が異様に目立つ。いじめか。いじめられてるのか私。しかも普通ここは<ごめん>とかの場面じゃなかろうか。じゃなくて<ありがとう☆>ってどういうことだ。 「あれ、一人?あいつらホンマに帰りよったんか。薄情な奴らやなぁ」 「白石・・・帰るん見てたんやったら止めてや」 「いやまぁ止めるも何も、」 「何も?」 「冗談で"が一人で頑張るから帰ってええんやって"って言ってみただけやねんけど?」 「・・・全力でしばかれたいのかい?」 肩を落とす私の背後から同じクラスの白石が現れた。しかもとんでもないことしでかしたと自ら暴露してくれた。文句をぶつける相手が直接出向いてくれるなんてありがたい。力一杯握り締めた拳と不自然な笑みを携えて白石を見ると、えらい物騒やな、と笑い返された。本気で殴りかかろうとしている人間が目の前にいるのになんでそんな余裕の表情なのか。こっちの心境はそんなに穏やかでないのを、自分が何をしでかしたのか分かってるのか?ギリギリと私の拳は強く握られていく。爪が食い込んでいるのか結構痛い。 「要は俺が手伝って終わらせればええんやろ?」 「むしろ白石一人でやれ」 「俺一人じゃこの状況を誰かが見たら事情説明せなあかんわけやし?」 「なんて?」 俺に事情話させたら、"さんが自分一人で掃除するって言ってたのに、白石くんに無理やり全部押しつけてさっさと帰っちゃったんだって!"ってなるで?なんせ俺、人気者やし女の子って怖いし。自意識過剰がどこまでも祟る人間だと思った。しかし、白石にそんなことを言わせたら私が危ない目に合うのも事実だ。弁解しようにも人気ある男子とクラスの平凡女子とでは話にならない。味方に付く人間が少なすぎる。 「ほらほら、ちゃっちゃとやろや」 「あんたが言うなっつーの!」 「帰りはちゃんと家まで送っちゃるから機嫌直し」 「そんなもんいらんわ」 「それにしてもこういうシチュエーションって恋するには絶好ちゃう?」 「誰が誰に・・・って聞きたくもないけど」 「が俺に。俺はとっくにに惚れてるからそうなったら両想いやねん」 「ないない絶対ない。ってかもうその口一生開くな」 あーあ川瀬に振られたら生きていけんわ。本当に人を苛立たせることしか言えないのだろうかこいつの口は。とにかくさっさと掃除を終わらせてこの状況から抜け出したい。一刻も早く、白石とさよならできることだけを私はひたすら考えていた。 私と掃除とサボり (09/09/07) |