『おはようございまーす』 「・・・」 『アレ、ちゃーん、起きてます?』 「・・・えーと」 『何やねん、寝惚けてんのか?』 寝ぼけてる?ああもう朝なんだっけ?かかって来た電話にそう思って、携帯の時計を見ると2時。 うわーお昼過ぎまで寝ちゃったよ!とか思ってみても窓の外は真っ暗だった。もう一度時計を見直すと、確かに2時。 でも14時じゃなくて2時。朝というより深夜で真夜中なわけで。 「寝惚けてんのはどっちの方が?」 『どっちって何が?』 「本気で寝惚けてるんはあんたの方やっていう話ですよ、忍足謙也クン」 『お前・・・まさか昼間の約束忘れてんちゃうやろな?』 昼間の約束・・・? **** 「たまに思いっきり遊びたいって思うねんなぁ」 「謙也はテニス馬鹿やもんね」 「テニス馬鹿っつーなや。熱心やと言いなさい」 「はいはい。それで遊びたいって何して遊びたいん?」 「何して遊びたい?って言われたら何したいんやろ・・・どう思います、サン?」 「っていうか遊ぶったってあんた部活ばっかやから無理やん。引退するまで諦め」 「えー!そんなん言われたらなんとしてでも遊びたいわ!!」 「部活終わってからやと夜中しかないんちゃう?無理やね、ご愁傷様」 「・・・夜中。あー夜中か!」 夜中なんて考えもせんかったわ。そう呟いて謙也はなにやら考え始めた。突然何を思ったかと思えば遊びたいだなんて、やっぱり中学生というべきか。 部活一筋と決めてたって、たまには友達と遊びたい気持ちはあるみたいだ。ただ夜中に遊ぼうとするだなんて、多分碌でもないことだとは思う。何やらいやな予感がする。 「よし、決めたで。自転車で真夜中町内一周の旅や!」 「は?」 「こんなんは計画性が大事やねんって。さてどうしよな」 な?と謙也は言ったけど、やっぱりいやな予感が当たった。絶対部活で疲れてるくせに何を考えてるんだか。 遊んでくれる友達はたくさんいるのに、それなのになんであたしなの。(その理由をはっきり知りたいわ) 「勝手にしぃや。言っとくけどあたしは付き合わんよ」 「やないと誰が付き合ってくれんねん、こんな話!」 もはやそれが友達と遊ぶことになるのかすら分からない企画で、しかもあたしじゃないと誰も付き合わないとか勝手な言い分で、 そのくだらない話に巻き込まれるあたしはどうだ。テニス部のみんなに頼むとか、誰か女の子がいいならファンの女の子にでも頼めばいい。 「嫌やし。夜中とか女の子の出歩く時間ちゃうもん。しかも親に怒られるし」 「だから俺が一緒やからええやん?なー付き合ってや!」 付き合っての意味が違ってたってその言葉に思わず反応する。天才・財前君や謙也の噂の従兄弟なら間違いなくこれを確信犯的にやっているのだろうけど、謙也は分からない。 というよりは多分何も考えてないのだと思う。今はどうやって遊ぶかにのほうが謙也にとって重要なのだ。真夜中の暗闇の道を自転車で巡るっていうちっぽけな冒険計画を、 楽しそうに語る謙也を見ると渋ってたって結局そんな企画に乗ろうって思ってしまうあたしは、きっと相当の暇人で、相当謙也に甘い。 「・・・ここまで言うといて部活で疲れてたから行けへんとか言うんなしやで」 「わかってるわかってる!絶対約束する!」 「で、何時に?」 「そやなーむっちゃ夜中って感じの時間・・・2時ぐらいにしよや!」 「・・・あんたそれって丑三つ時っていう」 「なんや怖いんか?」 「ちゃうわ」 「まぁ隠したってバレバレやけどな。怖がりやし」 ・・・この男は。ホントに何処まで私のことを分かってるか分からないけど、いちいち私の心を揺さぶるセリフを言う。ああ嫌だ。 これが確信犯だって言うのなら今すぐ笑ってやるのに。 **** 「ああ、そういえば」 『ああってお前、本気で忘れてたんか!?』 「嘘やって。もうとっくに家の前に出てるよ」 『一瞬本気で忘れ去られてると思ったわ』 「ごめんごめん。でも早く来てもらわんと寝るで?とりあえず今、すごい眠いねん」 『浪速のスピードスターをなめんなや。すぐ行くから寝んと待っとけよ!』 電話を切ってからすぐに1件のメールが入った。何のドラマを見たのか、何の本を読んで覚えたのか,従兄弟の影響なんかもうどれだか分からないアホみたいにくさい台詞が 書かれたメールに笑って、これから来る謙也になんて返事を言ってやろうかと思いながら携帯を閉じた。 |