男勝りの私にはそんな日、関係ないはずだった。


好きのお返し



3月14日、昼休み。イロメキだつクラスメート達を横目に食事タイム。

「ねぇ、郁・・・皆ソワソワしてるよね?」
「あんたは?」

小さく呟いた私に、目の前の友人は意地悪い笑みを浮かべていた。唐突な彼女の言葉にギクっとして眉をひそめると、同じ笑みを浮かべたまま再度問掛けられる。

は何個?」

この質問はいつも貰う側だからなのかな。だってくれる女の子たち可愛くて大好きだしそれなりには。と、思いながら頭の中で貰ったチョコレートの数を浮かべる。 あの子とあの子と、それからあの子達と。

「んー10個ぐらいかな」

そう告げればメロンパンをくわえた郁は意地悪な笑みを深めた。

「じゃなくて・・・」
「・・・?」
「あげたんでしょ?」
「・・・っ!」

にやりと口端を吊り上げながらの言葉に一気に身体の熱が上昇するのを感じた。ていうか待て、なんで郁が知ってる。 郁が、というか誰にもバレないようにしたはず。買ってる所を誰にも目撃されない為に市販じゃなく手作りにした。 材料だってわざわざ母親に頼んで買ってきて貰った。なのに、なんで!

「な、な、な、なんで知ってんの!」
、かわいー」

私の努力を嘲笑う様にケラケラ笑いながら、頭を撫でてくる郁の手を振り払って問い詰めると、彼女は本人に聞いた。と言った。は・・・? 本人って私?いや、言ってないから!全く見に覚えありませんから!本人・・・あげた私じゃなきゃ、貰ったあの人!?そういえば口止め忘れてた・・・ていうか、まさかあの人がそんな。

「あの人が言うはずないじゃん!絶対ありえない!」
から貰いました?って聞いたら"ああ、もらったね”だってさ」
「えええ!!?ってか何でそんなこと聞くかな、郁は!」
「だってがずっと好きだったの知ってたもん」
「あの人もなんで普通に言うかな!」
「よっぽど嬉し「あの野郎、何しに来たんッスか!!」

楽しそうな郁の後ろ側から獄寺くんの喚き声とクラスメイト達のざわめきが聞こえた。ちょ、あれ雲雀先輩じゃねぇ!?なんで雲雀先輩が・・・? 血の気がひいた青い顔の男子と、ポッと頬を染める何人かの女子が視界に入った。女子が顔を赤くしているのはホワイトデーという今日の日のせいでもあるのだろう。



唯我独尊。世の中全て自分の為に回ってるとしか思っていない無茶苦茶な風紀委員長だけど、顔は決して悪くない男前で、喧嘩だって桁外れに強い。 大人しくしてれば危害は加えられないし(多分だけど)、彼の役に立つ人間には優しい。一際目立つ漆黒の髪に、浮かべられた笑み。 群れてる奴らが鬱陶しかっただけ。と言いながら、数人の男子に囲まれた女子を助けたりとか。 彼からすれば本当に言葉の通りなんだろうけど、恋する女の子は盲目なのだ。自分を救ってくれた異常に強い男が王子様に見えない訳がない。 そんなこんなで、彼に好意を寄せる乙女達は少なくないはず。事実、去る2月14日には山ほどの贈り物が彼に捧げられていたのを、私が誰よりも知っている。 彼が来たという事実に机に顔を伏せてただ時が過ぎるのを祈った。それは本当に無駄な抵抗でしかなかったけど。

、いる?

クラスメートに話しかける雲雀さんの声が、呼ばれる間もなく耳に入ってチラリと盗み見るとガッチリ目が合った。

「・・・、聞こえてるならとっとと来なよ。咬み殺すよ?」

ひーっと心で叫びながら重い腰を上げる。後ろから痛い視線をヒシヒシと感じながら。

「は・・・い」
「僕を待たせるなんていい度胸だね?」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!」
「まぁ・・・そういうとこ、嫌いじゃないよ。これお返し。」

無造作に渡された可愛らしい包み。悲鳴の様な声が聞こえた。なんでさんに?どういうこと!? そんなギャラリーを気にせずに雲雀さんは小さな箱もひとつ、私の手のひらに乗せて。固まる私に思いあたった様に。

「ああ・・・サイズ違ったら言って。直しに出してあげるから」

・・・・・・神様。助けて下さい。

「それで、返事なんだけど」

返事・・・?一気に教室が静かになって、彼の続く言葉に意識が集中される。

「僕がずっと一緒に居てあげるよ。いいだろう?」

うわぁ、熱々ーなんてからかう郁の声と、悪夢だーと叫ぶ獄寺の声と、なんか分からないけど良かったね、と笑うツナの声と、怖い物を見た様な男子生徒の視線と罵倒を繰り返す女子生徒の声が充満して。 こんな目にあうぐらいなら素直に言うことなんか聞いて、バレンタインデーにチョコレートなんかやるんじゃなかった・・・。風紀委員の先輩だからってありえない、この展開。ホワイトデーに嫌がらせですか、雲雀さん。

「大丈夫ですよ。の返事はイエスですから」

郁の声に、雲雀さんは不敵な笑みを浮かべた。どこで仲良くなったんだこの2人。とりあえず静かな教室でとんでもないセリフを響かせた郁を睨んだ。

「というわけで、行くよ」
「え、だってまだ午後から授業が・・・」
「僕はいつでも好きな時間割だから」

どういう意味!?ていうか私はまだ授業があるんですけど!と主張すればトンファーが飛んできそうだったのでぐっとこらえた。 腕をしっかりつかまれて幾多の視線を後に、引きずられる様に教室を後にしながらそのうち女の子たちに体育館裏にでも呼び出されるかな、とぼんやり考えた。

「あーあ、絶対敵増えた・・・どうしてくれるんですか」
「いいじゃない、別に」
「よくないです!雲雀さんとは全然違って打たれ弱いんです!!」
「それなら君の敵を僕が咬み殺してあげるよ。いいだろう?」
「いや、それはそれで困るんですが」
「いろいろとわがままだね。まあ君だからいいんだけど」

と、雲雀さんは私に渡したプレゼントしてくれた指輪を、取り出して指にはめてくれた。

、好きだよ」

触れられた指から熱が伝わって、そうそう拝めることの出来ない雲雀さんの笑った顔を見てしまったら何ともいえない恥ずかしさがこみ上げた。 あーもう!私だって好きですよ!

06/11/27