「あのさ、って俺のこと好きなの?」

授業終わりのことだった。まだ黒板を移し終えていない私に向かって放たれた言葉は、意外性と破壊力抜群ものだった。手に持っていたシャーペンをぐっと力を入れたせいか、ポキンと芯が折れた。ものすごく眉間に皺を寄せた表情で神尾を見やると、神尾は平然として私を見ていた。私の前に座る伊武もまた、その発言に驚いて振り返る。私が、神尾を好きだと?友達から聞かれるならまだしも、本人からそんなこと聞かれるなんて思いもしなかった。神尾の頭がおかしいとしか思えない発言だ。

「・・・なんでそうなるの?」
「昨日の夢で、に告白されたんだよ」
「へぇ、そうなんだ。おめでとう」
「ちょ、伊武、肯定してないから!神尾の夢の話だって言ってる!」
「だって夢に出てくるってことは、は俺のこと好きなんだろ?」
「だからなんでそうなる!」
「・・・むしろ逆だろ普通。夢に出てきたってことは、神尾が、」
「そうそう、神尾が私を好きなんじゃないの?」
「・・・俺が、のこと好き?」

なーんてね、と伊武と顔を合わせて笑った。他愛もないいつもの冗談話だ。夢に誰かが出てくるってことはよくある話で、大概は大した意味もなく、すぐに忘れるものだ。それを神尾が覚えていたのは、私が神尾に告白するという珍しい話だったというだけで、これだって意味のないものに違いない。うーん、と冗談話に真剣に考えを馳せる神尾を横目に、ようやく写し終えたノートを閉じて、次の授業の準備を始める。伊武も、もう興味がなくなったという様子で、頬杖をついてぼんやりとしていた。チャイムが鳴り始めると、バタバタと教室の中にみんなが戻ってきて、席に着く。ガタガタと音が鳴り響く中で、神尾の声だけが鮮明に聞こえたのはきっとなにかの偶然。

「・・・やっぱ、のこと好きかも」



 気になり始めた隣人


10/03/06