ピンポーン。玄関のチャイムが鳴って外に出て見れば見慣れた姿が1つ。鼻を真っ赤にしてまでここに来る意味はあったのだろうか。時計を見ると23時58分。新年まであと2分ぐらい。ドア開け放しているとこっちも寒いので、とりあえずを玄関に入れてドアを閉めると、暖かーい!とマフラーを外し、マフラーに埋めていた口を開いた。あと30秒ほどで年が変わるな、と思っていると彼女がさらに口を開いた。 「新年明けましておめでとう、深司!」 まだ新年は迎えていないのに全く気が早い。そもそも君は女の子なのにこんな真夜中に一人で出歩いてどういうつもりなんだろうね。常に何を考えて行動しているのか分からない彼女の思考回路にはほとほと呆れる。そうしていると、テレビでカウントダウンが始まった。5、4、3、2、1。 「明けましておめでとう。で、何の用?」 「え、それだけだけど?」 用も済んだし、じゃあ帰るね。はあっさりとそう言ってドアノブに手をかけた。全く自分勝手にも程がある。彼女から突然、今から行くから!のメールが来た所為でこうして真夜中に迎え入れることになるし、無事に来れるかどうかが心配でドアの前で何分か待っていたのだけれど、もういいや。そんな過去のことを今は気にしている場合ではない。 「俺も出るよ」 「何で?送ってくれるの?別にいいのに」 「の為じゃないよ。その辺まで見送ってからそこの神社に初詣しに行くんだよ」 「あ、じゃああたしも一緒に行く!」 「勝手にしなよ。まぁそう言わなくても君はきっとついてくるんだろうしね」 「で、深司は何をお願いするの?」 「さぁ。テニスで全国行って生意気な奴ら全員ぶっ倒したいなぁとか思ったけどそれは自分で叶えるし、そう思えば初詣になんて行って人混みにまぎれてまで叶えたい願い事とかないなぁって思い出したら、だんだん面倒になってきた。 もう帰ろうかな。というかそもそもが俺のところへさえこなけりゃ俺はこんな面倒なことにもなってないし、だからもっと君が自分の行動に責任もって動いてくれればいいなぁって思ったけど、それを言ったところで直るかどうかは本人次第だから俺には言ったところで仕方ないし・・・」 「ぼやかないぼやかない。じゃあ私が深司の願い事決めてあげる!」 「どんな?」 「1年健康でありますように!あと、神尾君とこれからも頑張っていけますようにって!」 「俺がそれを願うわけ?健康でありますようにってなんか今の俺が不健康みたいじゃないか。あぁそう見えてるんだ、には。 どうせ俺なんか不健康なんだろうけどさ。それはいいとして何で神尾とって決め付けるわけ?テニス部にはほかに何人もメンバーもいるんだし皆で頑張ればいいじゃないかって話だよね? 俺が神尾と頑張るように願うのってなんか気持ちが悪いって言うか気味が悪いっていうか・・・」 「じゃあテニス部全員と頑張っていけますようにと私とこれからも仲良くやっていけますようにってお祈りしてね!」 「何でがそこに入ってくるわけ?」 「いいじゃん!私の深司の仲なんだから」 「どんな仲だよ。で、君は何を願おうっていうの?」 「まぁまぁ。それは秘密ってことで。私も今年は勝負に出るって決めてるんだから覚悟してよね」 「何を俺が覚悟するわけ?そんなに覚悟しなきゃいけないようなことを君は俺にわかっててやろうっていうんだったら酷いよな。酷いを通り越してそれは虐めっていうんだよ。分かってる?覚悟が必要なら先に言ってくれれば俺もそれに対処が出来るんだから先に言ってもらったほうが嬉しいんだけど、そういうことすると君のたのしみがなくなっちゃうんだよな、ああごめん。 じゃあ俺はいつか酷いことされるっていう気持ちを持って新年を迎えればいいんだよな。それってホント最悪だよなぁ・・・」 「そのうち分かるから!早く行かないと神社が人でいっぱいになっちゃう!!」 「君ってホントに自分勝手だよなぁ・・・」 それでも、結局一緒に行くことになって嬉しいのは誰だって話だ。そうか、もう俺も覚悟決めたほうがいいのかもしれない。この強引さに勝てる気がしないのは、振り回されてるような気しかしていないそれすらも嫌だとも思わないのは、もうとっくの昔から分かりきった答えでしかない。
振り回されて、深みに嵌る (07/01/03) |