沖縄はとことん暑い。夏休みに入って、宿題をしに図書室へやって来たけれど、慣れない勉強と暑さに耐え切れずに中庭の木陰でだらしなく四肢を放り出していると、テニスコートで水撒きをしているのが見えた。 涼しそうだなぁと眺めていると、水撒きをしている姿があまりにも珍しい人物だったので、とりあえずテニスコートまで本人かどうか確認に向かう。やっぱりその光景は見間違いじゃなかったようだ。信じ難いその光景に思わず声を上げてしまった。 「平古場が水撒き!?嘘!」 「、それは失礼じゃねぇ?」 「いや、暑さによる蜃気楼かと思って」 「ホント失礼さぁ」 そう言ってフェンス越しに話していたはずなのに、平古場はホースを後輩に預けてコートの外へ出て私のところへ来てしまっていた。結局はさぼりだ。きょろきょろと周りを見渡して警戒しているのは木手と早乙女先生を探しているに違いない。 あの2人にさぼっているのがバレたら平古場(と甲斐)はただじゃ済まない事をよく知っている。何かと言い訳をつけて甲斐と脱走を試みている平古場は木手の監視下の元でしっかり部活に参加させられていた。 居ない事を確認した平古場は次に私の目の前で手を合わせ、お願いのポーズをとった。 「なぁ、協力してくんねぇ?」 「何の?」 「俺暑いから早く帰りてぇの。でも永四郎も監督も許してくれんからさぁ」 「私に木手と早乙女先生を説得しろとでも?」 「いや、お前が日射病で倒れたことにして、俺がお前を家まで送るっつーことにして俺も家に帰」 「そんなうまい事行くわけ無いでしょ」 「げっ、永四郎!」 バッと後ろを振り返ると冷ややかな目をした木手が立っていた。 それはもう真夏の暑さも吹き飛ぶような冷たい眼差しで視線の先にいる平古場は蛇に睨まれた蛙のようだった。その様子を見ている私もなんだか背中に汗をかいているよう様な気がしてきた。 「平古場クン、嘘は止めなさいよ。サン、貴方もこんな冗談に付き合わなくてもいいでしょ」 「いやいや別に付き合ってないから」 「裏切り者だばー!」 「元からやるとか一言も言ってないし」 「平古場クン、逃がしませんよ」 木手の手が伸びて平古場の服が掴まれそうになった時、平古場は両手を挙げて降参のポーズをとった。木手はその様子を見て手を伸ばすのをやめ、腕を組み直して平古場の出方を待った。 そうするなら始めっから真面目に部活に励めば良かったのに、と思っていると小さく平古場がニヤリと笑ったのが見えた。あの笑顔は嫌な予感がする。 「わぁーたわぁーた!戻る戻る!・・・・なんて俺が言うと思った?」 「平古場クン、いい加減にしなさ」 「やべっ、永四郎怖っ!そんなん逃げるに決まってんさぁ!いくぞ、」 「ちょ、ちょっとちょっと!」 何で巻き込まれているのか分からないけれど、急に腕を掴まれて平古場に引きずられるように連れて行かれた。木手の眼鏡が太陽に反射して怪しく光っているのを最後に、ああもうきっと次に会うときにはあの冷ややかな目で私が見られるんだと思っていると、いつの間にか校門の前まで逃げ切っていた。 逃げた距離は十分なのに平古場は走るのを止めようとしない。平古場は逃げているくせに何だか楽しそうで元気いっぱいだ。それだけ元気があるなら文句言わずに部活すればいいのに。 「何処まで行くのよ!人のこと巻き込まないでよ!」 「何処までもいいんじゃねぇの。このまま愛の逃避行とかで」 「あ、あんた馬鹿じゃないの!暑さで頭やられたでしょ!っていうか早く手を離して!巻き込むな!」 「は俺に冷たいさぁ」 「そういう問題じゃないから!!」 ハハハと平古場は笑ってそれでも走ることを止めなくて、辿り着いた先は、結局のところ平古場の家でも私の家でもなくて、海。 平古場は嬉しそうに海に飛び込んでも早く来んさぁ、なんて言うけれど私は制服なのに行ける訳もない。 岩場でただ平古場の楽しそうな様子を眺めていた。 「!これやる!」 呼ばれて振り返るとヒトデを投げつけられて、驚いたばー?とケラケラ笑う平古場を見て、思わず全力で投げ返してしまった。 「酷っ!ヒトデが可哀想!!」 「投げたあんたの言うセリフか!!」 なんでそんな無邪気に笑うのよ!っていうかすっごい暑い!夏なんて暑くてだるくて大嫌いだけど。
このまま夏が
続けばいい なんて思ってしまうあたしはいったいどうしたのよ!? 「project72」企画様へ捧ぐ!嗣也 |