我らがボス、ディーノさんがロマーリオさんたちとキャバッローネのシマを荒らす他のマフィアたちに制裁を加えるが如く出掛けると言うので、本日ボスから与えられた任務は、“雲雀恭弥の見張り兼暴走止め係”というなんとも危ないものを授かった。1週間前、ボスが連れて来た彼は相当危ないじゃじゃ馬で、ボスでさえ扱いきれていないのに、ましてや私が敵うわけなんてない。私は任務を与えられた為に、部屋の入口付近でベッドで寝ている雲雀さんを見張り続けているのだが、一刻も早くボスに帰って来ていただきたいのです。当の雲雀さんは、今はまだぐっすり寝てらっしゃるようで安心である。木の葉一枚落ちる音でも目を覚ますそうなので呼吸すらし辛い。いや、こういったことは訓練で慣れているのだけども。ただ、連れてきた張本人のボスがいないことが知れたら確実に私が狙われますよね。うん、確実に。ボスと闘っている姿を見て本当に強いと思ったし、あの凍付くような瞳が私を捕らえた瞬間に喰われた気分になるのは恐怖なんですかね?心が鷲掴みされて苦しくなるような・・・実戦経験もそれなりに積んでいるから恐怖心を抱くことなんて滅多にないんだけれど、なんなんですか、これは。 「ん・・・」 そうこう考えているうちに雲雀さんは目を覚まされたようだった。 「お、おはようございます」 「・・・」 「あ、あのですね、ボスは今日、任務で不在なんですけど・・・」 「・・・君、誰?」 「あ、本日、雲雀さんのお世話をさせていただくです」 「・・・そう」 雲雀さんは大きく欠伸をした。まだ寝ぼけ眼のようである。そしてその寝ぼけ眼のまま、ベッドから降りて服を着替え始めたので、私は慌てて後ろを向いた。男社会のマフィアで男性の裸は見慣れているはずなのに、何故か異様にドキドキする。彼が私と年が近いからだろうか。いやいやそんなはずはない。そんなことで動揺するほど私は自分を甘く鍛えていないはずだ。なのに、何故、彼の前だと私はこんなにも緊張するのだろうか。もしかして人見知り体質だったの、私。いやいやそんなはずは・・・と背中に急に違和感を感じて私は受け身を取り、地面を転がった。バッと起き上がって自分がいた場所を見ると、着替え終わった雲雀さんがトンファーと楽しそうな笑みを浮かべて立っていた。 「ワォ見事だね」 「い、いきなり何を」 「君が今日僕の相手をしてくれるんだろう?」 「え、いや、それは違」 「そうなの?まあそれでもいいや。目の前の奴は関係なく咬むから」 「え、そんな、ちょっと!」 容赦なく飛びかかってくる雲雀さんを相手にとりあえず逃げてみた。パリンという音がして花瓶が割れた。このままでは部屋中の物が壊れてしまう。一応ここは客室であるわけであって、それなりに値段の高いものも飾られている。ボスは恭弥相手なら仕方ないなぁって笑って済ませそうだけど、ロマーリオさんはきっとそうはいかないだろう。一応これは任務だし、後から渡されそうな請求書に寒気を覚えた。やばい。咄嗟にベッド側へ移り、窓から外へ飛び出し、庭へ出る。本当に一階で良かった。追ってきた雲雀さんと向かい合い、構える。今、拳銃がない私が雲雀さん相手に出来ることは一つ。ただ攻撃を避けることだけだ。私はひたすら避け続けた。それはもう30分ぐらい経ったのではないだろうか。 雲雀さんは攻撃を一旦止めた。雲雀さんは息一つも乱していない。本当に一般人なのだろうかこの人は。 「」 「は、はい!」 「やっぱり君は面白いよ」 「え?」 「初めて会ったときからそう思ってた」 そう言って雲雀さんは微笑んだ。そんなのって不意打ちだ。そう思った瞬間にはもう私は地面を転がっていた。腕が痛い。真正面の攻撃を避け切れずに両腕を体の前で盾にしたからなんだけども、本当にこの人は容赦ない。鍛えてなかったら確実に折れていた。そして相変わらず雲雀さんは笑みを携えている。 「君みたいに強い人は好きだよ」 だから、不意打ちだって・・・!振り降ろされたトンファーを今度はちゃんと避けられた。攻撃を避ける中でひとつ、分かったことがある。ただひとつ、確かなことは、雲雀さんが、私の心を掴んで離さないのだ。 獲物に駆られた狩人 (09/02/01) |