織姫様。彦星様。1年に1度のあなた方の再会の日に、願ってもいいですか? どうしても会いたい人がいるんです。あなた方のように私にも。 天の川の迷い星 くたくたになった体を家まで運ぶたった10分の距離がやけに遠く感じるのは、ここ最近毎日だ。部活からの帰り道、夏なのに辺りはもう真っ暗な時点で、中学生の部活としてはやり過ぎだと思う。今日は特にそうだ。試合前だからってやり過ぎではなかろうか。そう思いながら学校から100メートル辺りにある公園の前を通り過ぎようとしたら、ブランコが風に揺れてキィキィと不気味な音を立てている。・・・よし、早く帰ろう。この恐怖に打ち勝つには早く帰ることに越したことはない。。その時、突然誰かに呼ばれた気がして走り出そうとした足を止めた。公園の中を見渡しても誰もいない。やばい。そろそろやばい。。また聞こえた。さっきよりずっとはっきり。ふと目の前の電柱の灯の下に人影が見える。見た瞬間、肩から鞄がすとんと落ちた。 「久しぶりやね」 「・・・千里、なんで!」 「遅いけん迎えに来たばい」 「じゃなくて!なんで、ここに居るの・・・」 「ちょっと用事たい」 千里は近付いて来て、私が落とした鞄を拾いあげた。そして驚いたまま立ち尽くす私に手を伸ばし、送っちゃるよ。と一言、汗でべたつく私の腕を引っ張って歩き始めた。目の前のこの光景が信じられなくて、夢でも見てるのかと思ってしまうのに、腕に触れる熱は温かく伝わってくる。どうやら本物みたいだ。 「今日、晴れて良かったの」 「え?」 「天の川はっきり見えるけんね」 「あ、そういや今日は七夕だもんね。うん、よかった」 「んちの庭に笹飾っとったけどなんか願い事したと?」 「うん。まぁ中身は・・・内緒だけど」 「俺もこの間みゆきが短冊送ってきたと。願い事書いて送り返したばい」 「なんて書いたの?どうせまたテニスのことなんでしょ?」 「・・・違うたい」 そう言うと、千里は立ち止まって振り返った。私を見下ろす千里の顔を見上げて、こうして真正面から千里の顔を見るのは何年振りだろうか、とつい思った。千里が大阪に行ってから会うことなんて数えるほど、3年離れて千里が帰ってきてから会ってた時間なんて30分にも満たないほどだったから、随分と久しぶりだ。背もまた伸びた、声も低くなった、それでも昔から私の面倒見て、手を引っ張って家へ連れて帰ってくれる所はちっとも変ってない。懐かしくて、嬉しくて。嬉しくて、泣きそうだった。 「そ、そう言えば、千里の用事って何なの?」 「願い事を叶えに来たんよ」 「・・・叶えに?千里の願い事って一体」 「に、に会いたかったとよ」 ふっと千里が笑った。優しい眼差しが私に向けられる。 織姫様。彦星様。1年に1度のあなた方の再会の日に、願ってもいいですか? どうしても会いたい人がいるんです。あなた方のように私にも。 「私だってずっと、千里に会いたかったよ」 (09/07/07) |