学校の帰り道途中にある細い路地裏の前を通りかけた時、べちゃっと鈍い音を耳が拾った。全く良い予感はしなかったものの、何だろうと好奇心に負けて音の方を向くと、真っ赤に染まった地面に倒れている人が見えた。 赤いのは・・・明らかに血だ。うわー殺人事件現場初めて見てしまった!どうしよう、警察に連絡すべき!?などと考えていると笑い声が聞こえてきた。 「うしし。退屈凌ぎ完了」 「全く・・・そんなんでいいのかな。そのうちボスに怒られるよ」 「心配する必要ないって、マーモン。だって、オレ王子だし」 「マフィアに王子は関係ないと思うけどね」 眼に映った姿は金色の髪に冠を被った少年と口調がしっかりした赤ん坊の姿。此処は日本で、マフィアとかボスなんて言葉はまず聞くはずが無いのに、このあたりの治安はいつの間に悪くなってスラム街みたくなったんだろう。 なんて今あることをないことのように考えていると、二人が突然私のほうにくるりと向いた。やばい、逃げないと殺されるかもしれない!と頭では分かっていても、初めて見る遺体やら彼らに驚いてしまって足が動かない。近づいてくる二人。 これは絶体絶命のピンチ・・・助けて神様!と願って目を瞑るとねぇ、と声をかけられた。 王子よ王子よ 王子様!? 「はい?」 「君、名前は?」 「え、あ、ですけど?」 「、ね。オレの后にならない?」 「・・・は?突然何の話ですか!?」 「一目で君が気に入ったんだよ。だからオレの后になろうよ」 「話がまったく読めませんから!しかも后って御伽噺じゃあるまいし!」 「后で間違ってないでしょ?だってオレ王子だもん」 私はツッコむべきところはしっかりツッコミが出来ている程冷静な自分を褒めたり、何言っちゃってんの、殺されるよ!と自分を批判したりしていた。 殺人犯と話をして、しかも突然自分が王子だとか言ったり、その上人に后になれとか言うしなんだこのわけの分からないシチュエーションは。ところでこの時代に王子様なんて本当にいるのか?しかもこれはなんだ。 マフィアって言葉しか聞こえないけれど、王子様はマフィアの一員なのか!? 「ねぇベル」 「何だよ」 「別にその女がいけないとかどうこうとか言わないけど目的はちゃんと果たしなよ」 「あー今日の夜だろ?オレ王子だし、天才だしどうにでもなるって」 「それでリング取られたら本当にボスに殺されるからね」 「大丈夫だって。だってオレ王子だし」 だからさっきから王子王子って言葉を繰り返して、本当に王子とマフィアの関係って一体なんなんだ。彼らの実態が掴めないまま話は進んでいく一方で、確実にあたしは置いてけぼり。 王子って言うのは姫を迎えに来る正義のヒーローみたいな感じで、決してこんな血塗られた容姿を持つ人が王子な訳がないと考え続けた。 アンデルセン童話とかグリム童話とかが実際すごい怖い話だって言うのは聞いたことあるけど、(と言うかそんな怖い話の方は信じないと心に決めている)この人程ではない気がする。 「じゃあね。明日のこの時間にまた此処で会おうよ。ちゃんと指輪持ってくるからさ」 と現実に引き戻されて見ると、人の手をしっかり取って、しかも手のひらにキスなんて落としたりして、仕草だけは本物の王子様みたいだけどでも彼はマフィアの一員なのだ。 平然と会話をしながら帰る二人の後ろ姿に、それよりもこの現場は放置してしまっていいのか?見て見ぬフリをして帰ったほうがいいのかどうかなんて今はまだ考えられないけど、とりあえず腰が抜けた。ぺたんとその場に座ってさっきの事を思い返していた。 (07/01/27) |